バラが欲しいといったら、
君にはまだ早すぎるよ、と笑ってチューリップを差し出された。



チューリップローズ









この時期は、正直あまり好きではない。
男だらけの司令部内だというのに、ピンクの空気がざわめき始める。
そして、この木曜日の前後は、やたらと休暇願いが続出する。

「中尉、頼みます!お願いします!どーしても、14日がダメなら15日でもいいんです!」
「だめよ、13日も14日も15日も16日も非番の数は定員オーバーよ。」

その最たるものの部下が、朝からこりもせずに非番願いの書類を見せてくる。
10日ほど前から付き合っている恋人と、この木曜日はなんとしても甘く過ごしたいらしい。
そして、あわよくいいけばワンステップアップしたいという下心が見え見えだ。
日ごろ逢う時間を奪っている上司としては、非番を取らしてやりたい気もするが、そうも言っていられない。

「ごめんなさい、大佐もその日は逃げないように縛り付けて置くから、ね、」
「……はい。」

何だかんだ言っても物分りのいい部下は、聞き分けがいい。
それに、毎年のこととなると彼女の方も大分免疫が付いてきた。
そして、何より面倒くさいのは部下ではなく、上司だ。



*** ***





「ねぇ、ねぇ、」

まるで、主人に擦り寄る猫のような声で話し出す彼。
こんな声で擦り寄られるときは、大体「お願いごと」だ。

「なんですか、」
「もうすぐバレンタインデー、知ってるだろう?」

短く切られた黒髪頭が、ゆっくりと彼女の肩にもたれ掛かる。
彼女は、雑誌をめくる手をとめた。
めくってしまったそのページには、嫌味なほどピンクな空気のバレンタインデー特集。
毎年おなじみの手作りチョコレートの作り方やラッピングから、この冬流行のチョコレート。

「こんなのが、いいなぁーとか。」
「……面倒くさいです。チョコレートなら他のご婦人を当たって下さい。」

と、この一週間ずっとコレだ。
といっても、司令部に寝泊りをするときは別だが、彼女が自宅で就寝するときは、
この一週間ずっと、彼は彼女の家に押しかけては、チョコが欲しいのコールを浴びせてくる。

「君のが欲しい。」

どうして、この男はここまでチョコレートに拘るのだろか。
甘いものが好き。
確かに好きだ、ケーキやアイスクリーム、チョコレートも好物だろう。
わざわざ、板状のものを溶かして不味くしたチョコレートを欲する意味が分からない。
お金は弄ぶくらい持っているのだから、高級なチョコレートを自分で買えばいい。

「分かりません、どうしてそんなにチョコレートに拘るんですか?」
「どうしてって、君はこの手のことに、全く経験ないだろう?」

経験ない、そんなことはない。
毎年、なんだかんだ言って彼には既製品の綺麗なチョコレートを渡している。
部下にも同じものを渡して、(…ただの社交辞令じゃない。)

「君は、恋愛経験、私と以外ないだろう?
 キスも初めてだったしー、ベッドの上を許したのも初めてだったしー、腕枕も私とが初めてだろう?」
「…私だって、人並みに恋愛経験ぐらいあります。」

告白を受けたことだって、「お付き合い」をしたことは過去に何度かある。
しかし、それは「特別」といった感情があったわけではないように思う。
恋に恋焦がれたという表現が適切なのか、あまりにも相手が必死で断りきれなかったというべきか。
流されてしまったというべきか、別に断る理由もなかった。

「君と付き合ったヤツは大変だったろうな、」
「…何がです?」

「手も繋いでくれない、バレンタインみたいなイベントもことごとくスルー、でも美人。」
「けなしてるんですか?」

「おかげで、君の初めてを全部もらえて光栄だよ、ていう話をしてるんだ。」

そう言うと彼はにっこりと笑って見せた。

「君は他人に興味がないからね、今も昔も。」

そう言って彼は、まるで全てを知っているかのように、うっとりと喋る。

「かといって、自分に興味があるわけでもないし、」
「そうですね、私は自分にも他人にも興味なんてありません。」

今流行のブランド志向もないし、高級レストラン辺りにも興味がない。
衣服は外を歩ける程度のもので構わないし、食事は栄養がきちんと取れれば問題ない。
何のために生きているの?と友人に笑い話に問われたことはあるが、生きることには貪欲なつもりだ。
生きて、守らなければならないものがある。

「…君が興味があるのは、今も昔も私だけ、そうだろう?」

そう言うと、彼は嫌味なほど綺麗に笑ってみせる。

「そんな恥ずかしいこと、よく言えますね。」
「事実だろう?」

他のものなど、どうでもいい。
自分のことも他人のことも、それらに興味を持つ権利は、当の昔に捨ててしまった。

「で、一応、君の恋愛経験を聞いとこうじゃないか。」
「聞いてどうするおつもりですか?」

「…焼くか、燃やすか、焦がすか、まぁ、君の話次第かな。」
「どの方とも1ヶ月以内のお付き合いでしたよ?私の思考回路が理解できないみたいで、」

「そうだろうな、アレだろう。
 男はデートしようと言っているのに、君は射撃訓練場に向かうんだろう?」

全くもって、その通りだった。
誰かと話すのも面倒くさい、毎日一緒に過ごさないといけないという、その決まりの意図が理解できなかった。
自分の時間を割くことも、相手に合わすことも、相手に合わせられるのも嫌だった。
そう言う手のことが出来ないと知っていて、「付き合おう」と言ってきたのではないのだろうか。
全部込みで、「好き」という感情になったのではないのだろうか。
それなのに、相手に合わす、なんてどこか矛盾してないだろうか。

「興味ありませんでしたから、」
「今の聞いたら泣くぞ。」

泣かれようと、わめかれようと、興味がなかったことに変わりない。
相手の身の上話、休日の過ごし方、血液型に星座、知りたいとも思わなかった。
知ったところで、何のメリットもない。

「付き合うって、そう言うもんだろう?現に君は今、雑誌を読むのを止めて私と話しているだろう。
 自分の時間を割いて、私に付き合ってくれている。」
「それは…、」

「私に興味があるから、だろう?」

そう言って彼は、不適に笑ってみせる。
何処か腹立たしいものの、言い返せない自分が彼女は悔しかった。

「そして、君は私のことをよく知っている。
 国家錬金術師、焔の錬金術師、地位は大佐、最後の休みは3ヶ月前、野心家で残虐、
 甘いものが好き、もちろんチョコも好きだ、キスではまず上唇を舐めるとかね。」
「…他にも知ってますよ、サボり魔、雨の日は使用不能、最後の睡眠は3時間。
 誰よりも優しくて、情に絆されやすい。そのくせ自分には何処までも厳しい。
 ちなみに、キスを強請って来るときは、瞬きの数が増えてます、ご存知でしたか?

そんなにアレコレ説かなくてもいい。
ようは、チョコレートが欲しいのだろう、そう彼の顔に書いてある。

「生憎、私も君のことはよく知っているんだ。
 リザ・ホークアイ、地位は中尉、射撃の名手、司令部内にファンクラブあり。
 最後の休みは4ヶ月前、クールで何事にも動じない。サボり魔の上司に苦労をしている。
 紅茶が好き、ちなみにキスは下手だね、舌の使い方を知らない。」

「試してみようか」と彼はクスクス笑いながら、彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
いつものように、彼女の上唇を舐めると、彼女の口が少しだけ開く、そこへ彼は舌を侵入させた。

「んっ、」

そのままの状態で、ソファの上に押し倒された。
男の割には白い肌、この辺りでは珍しい真っ黒な瞳と髪の毛、その向こうに、見慣れた天井があった。

「チョコレートが欲しいんだ。別にクッキーだって構わないんだが。
 君が私のために時間を割いてくれる、というのが重要なんだよ、」

選ぶのにも、作るのにも、時間がいる。

「分かりました、楽しみにしていて下さい。」













遠い遠い昔の話。
当の昔に故郷と一緒に捨ててきた話。

「何か欲しいものはあるか?」

幼心に初めて見た黒髪と漆黒の瞳は印象的で、
それは子供目にも、タンポポやスミレが似合うね、というものではなく。
熟しきった実の赤色を垂らしこんだような、バラの花がよく似合うと思った。

「バラが欲しいです。」

薄暗い魔法使いの家にやってきた、魔法使いの弟子。
魔法使いの子供は、魔法使いの子供なのに、魔法は使えなかった。

「君にバラは早いな、」

そう言って、彼が持ってきたのは、ピンクのチューリップが一輪。
あの日から世界は、バラか否かの世界。








ばっふぁっふぁー。。
すみません、すみません、すみません、てかロイのキャラがおかしいし、
リザたんは、排他的だし。。。
いやいや、リザちゃんはずぅぅぅぅぅぅうううううううと昔からロイロイ一筋という、
あれ、別にバレンタインネタにしなくても良かったのかしら?
てか、バレンタインデー大分過ぎちゃってるぜよ、とかそう言う話だよね、すみません。


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