レッド・レッド・レッド




隣を歩く彼女は、いつだって抜かりない。
正しく言うなら、歩く彼女の位置は、彼に対して左やや後方。
つまりは、決して彼の横を歩いているわけではない。

でもやはり、今日ぐらいは美人な彼女を周囲に見せ付けるように、横に置きたい。
現に目の前を歩く見知らぬ恋人たちは、寒い中、手を繋いで仲良しなことだ。
それに比べて彼女は、相も変わらず、左やや後方を澄ました表情で歩いている。

この季節だけは、街行く恋人たちが無性に羨ましくなる。
別に、目の前にいるいけ好かない野郎の恋人が、可愛くて羨ましいとか、そういうのではない。
クリスマスというだけで、理由もなく愛しい人を抱きしめていられる、それが羨ましかった。
そして、彼女を抱きとめる理由を、さっきから必死に探している自分が、何だか情けなかった。

「大佐、どうかなされましたか?」
「いいや、」

ぶつぶつ考えながら歩いていると、左やや後方の彼女から声がかかる。

「何か考え事ですか?」

君のことだよ、と彼は心の中だけで呟き、ため息だけを彼女に返した。

「何か気になることでも?」

そう言って、彼女はその整った顔を少しだけ傾けた。
その仕草は、くすぐったいほど可愛らしい。
だが、いつからだろうか。
その可愛らしい仕草に、一種の憎しみに似たものを抱くようになったのは。

(聖夜に仕事のことで悩む男が、一体何処にいると言うんだ。)

コツコツと響くのは、彼女のヒールの音。
ヒラヒラと夜風に靡くのは、彼女のコート。
色気のない黒のヒール、飾り気のない黒のコート。

「クリスマスですね…、」
「そうだな、」

彼女の言葉に、辺りを見回した。
大通りは、クリスマス一食だった。
ほんわりとした電球の光と、赤服のサンタがトナカイを連れて空を飛ぶポスター。
店先では、サンタの格好に扮した男が、子どもを対象に風船を配っている。
それら全てを、ラッピングしたかのように、頭上には赤と緑のリボンが飾られていた。

「で、どなたとのお付き合いで悩んでいらっしゃるので?」
「は?」

街の飾り付けに意識を傾けていた彼は、思いもがけない彼女の言葉に、思考が一瞬、止まった。

「クリスマスの夜に大佐が、仕事のことで悩むはずないですから。」
「それで、女性関係だと?」

彼女は、そうです、と力強く言い放った。
どうして、そこまで鋭く読みが出来るのに、肝心なところで鈍くなるんだろう。
(むしろ、君の事なんだが……)

「鋭いね、君も。」

苦笑いをしながら、彼は答えた。

「大佐との付き合いも長いですから。」

長いなら、きちんと、こちらの心情を読み切って欲しいものだ。
中途半端に理解して、中途半端に彼女は鈍感だ。
こんなに中途半端だと、「可愛いな」なんて思えなくなってくる、むしろ恨めしい。


「差し支えなければ、ご相談に乗りますが?」
「相談か、なかなか、シビアなことを言うな、君も…、」

「これでも女ですから。」
「そうだね、まったくだ。」

「どんな女性なんですか?大佐が、そんなに手を焼いている女性なんて、珍しい。」

知らないとは、恐ろしいものだ。
もし、今の話の内容が、自身のことだと気付いたら、彼女はどんな顔をよこすのだろう。
彼は、少しそのことを想像して、口元を緩めた。

「恐ろしく美人なんだよ。」
「それでけでは、分かりません。好みとか、そういう情報がないと…。」

「まぁまぁ、ゆっくり聞きたまえ、
 とにかく美人でね、スタイルが良くて、何気ない仕草が堪らなく可愛らしいんだ。」

そこまで言って、彼は一呼吸取った。
無表情だった彼女の顔が、少し、歪んだ。

「それでいて、仕事が出来て、気が利いてね、言うことはないんだが、
 恐ろしいほど、色恋に鈍感なんだよ、困ったことに…、そこが可愛いといえば、そうなんだが、」

そこまで言うと、彼女は歪んだ顔を、すっともとの表情に取り繕った。
男が自分の隣で、自分の知らない女性の話、まぁこの場合はそうではないが、の話をすれば、
十中八九、女性とは不機嫌になるものだ。

「プライドが高い女性なんでしょうね、きっと。」
「そうだろうなぁ…、で、私はどうすればその女性に気に入られると思うかい?」

「大佐の場合、信用がないのでは?
 現に今、私となんか歩かれていて、大丈夫なんですか?一緒に過ごされては?」
「それとなく誘ってはみてるんだけどね、一向に気付いてもらえなくて、寂しいよ。」

「そういう女性には、直球に限ると、
 こないだ大佐ご自信が、ハボック少尉に助言されていませんでしたか?」
「自分のこととなると、男はどうもいけないな、臆病になるんだよ。」

彼は、クスリと笑って見せた。
先ほどから、彼女の言葉の語尾が徐々に刺々しくなっている。
それがいい加減、嫉妬から来ているものだと、彼としては気付いて頂きたい。

「随分な入れ込み様ですね、」
「本気なんだよ、珍しくね。」

(ほら、また、歪んだ。)
彼女の綺麗な眉毛が、ピクピクと小さく痙攣した。
わずかに彼女の顔が、不機嫌になっている。
知らない人間が見たら、そんなこと分からない程度だ。
それに、当の本人さえも得意のポーカーフェイスを決めている、つもりだろう。

「そうだ、クリスマスを理由にプレゼントでも贈ろうかと思うんだが、どう思うかい?」
「よろしいのではないんですか、
 大佐に贈り物をされて嫌な女性などアメストリス中を探しても、そうそう居ませんから。」

いつもの彼女とは思えないほど、言葉の語尾が乱暴に言い放たれる。

「そうと決まれば、選ばなくていけないな、」
「…そうですか、では、家までの護衛は必要ありませんね、私はこの辺りで……、」

「何処に行く気だい?付き合いたまえ、
 クリスマスの夜に、一人で女性へのプレゼントを買うなんて、焔の錬金術師の名に傷が付く。」

帰ろうとした彼女の腕を捕まえて、白々しくそんなことを言えば、
律儀な副官、リザ・ホークアイは渋々、付き合ってくれる。
それが、嬉しいことなのか、この場合は哀しいことなのかは、敢えて触れないことにした。

そういっても彼女は、相変わらず左やや後ろを律儀についてくる。

「隣を歩いてくれないかい?」
「どうして私が、その女性に頼んでください。私は部下です。」

「あのねぇ…、女性を後ろに従えるように歩くとか、傍から見たらおかしいだろう?
 これから女性へのプレゼントを買いにいくというのに、部下だと格好が悪い。
 恋人になってくれないかと、頼んでいるのが分からないのかい?」

そこまで言うと、やはり彼女は渋々彼の隣を歩き出した。
隣を歩く彼女の腰を捕まえて、腕を回して、抱き寄せる。
彼女は予想通り、鋭い目つきで日と睨みしてきたが、彼は軽く笑って見せた。

尤もらしい理由をつけて、彼女の隣を歩く権限をもらう。
彼女にはそれすらも、不服なのだろうが。




どの店の前も、買え!と自己主張をせんとばかりの品物で溢れかえっている。
やはり、そのどれもがクリスマス色で塗られて、愛らしいラッピングのモデルまである。
彼は、一軒の靴屋を見つけると、彼女の腰を抱いたまま、そそくさと中に入る。
店の中央に飾られた大きなクリスマスツリーには、いろいろな靴が飾りとして吊るされている。

「どの靴がいい?」

などと、少し意地悪っぽく聞いてみると、彼女はギロリと睨み返してきた。
それから、ぐるりと店内を見回して、ゆっくりと指差した。

「あの赤いヒールなんてどうですか?」

指差された赤いヒールは、店内で5本の指に入るのではないかという、値段だ。
ワザとだ、彼女の顔も意地悪っぽく笑っているような気がする。

「いいね、」

彼女が指差した赤いヒールを指に引っ掛けるようにして、手に取った。
真っ赤なヒールに、コサージュのような大人っぽい雰囲気の花が付いている。
いたってシンプルだが、素材やらデザインやら機能性に優れているのだろう、結構な値段。

「座って、履いてみて、」
「どうして、私が?」


「私の完璧な調べによると、肌の色、足のサイズ、形、全部君のと一緒なんだ。」
「……、」

そんな都合のいい話などあるものか、いいかげんに気付けよ、
と彼は、内心ブツブツいいながらも、大人しく椅子に座った彼女の足元に膝を折った。
それから彼女の左足を手にとって、黒いヒールをそっと脱がした。
日ごろ踵のある靴なんか履かない彼女にしてみれば、黒のヒールだってお洒落に入るのだろうか。

白くて華奢な彼女の足に、手に取った赤いヒールを履かしてやる。

「……、」

彼女は、自分の足をじっくりと見つめた。
彼女の足に、とてもよく映えた。

「似合ってるね、」
「私に似合っても仕方がないじゃないですか、」

ふふ、と笑って彼は彼女を見つめる。
彼女の視線は、ずっと自分の足先を見つめている。
適当に値段の高いものを指差したのだが、どうやら以外に彼女の心を擽ったらしい。
そんな様子が、彼にはますます面白く、先ほどから頬が緩みっぱなしだった。

「では、これと同じものを…クリスマス包装してもらえるかな?」

と、彼が営業スマイルで訴えれば女性店員の頬が桃色に染まった。
よくよく考えれば、クリスマスの夜まで仕事などご苦労なことだ。
そこまで考えて、司令部に軟禁してきた部下たちの顔を思い浮かべて、苦笑した。

そして、彼女の足に履かせている赤いヒールを脱がす。
すると、彼女は酷く切なそうな表情を見せた。

店員から、クリスマス包装された靴の箱を受け取る。
彼女は相変わらず、不機嫌なオーラを取り巻いている。

「どうぞ、」
「えっ?」

野太い声の後に、彼女の驚いた声。

「貰っておきなさい。」

笑いながら言ってやると、彼女は恐る恐る手を伸ばした。
野太い声の正体は、真っ赤な厚着と白いひげのサンタクロースに扮した店員。
彼女に手渡されたのは、紐に繋がれた真っ赤な風船。

「ありがとう。」

そう言って、彼女はその風船を受け取った。





それからしばらく、彼女は喋ることなく、黙々とただ歩いていた。
もう店仕舞の時間なのだろう、ポツリポツリと店先の電気が消えていく。
気付けば、人影も随分と少なくなってきた。

「もう帰っていいですか?」

静かに彼女が呟いた。
彼女からは、赤い風船が1つだけ、ぷかぷか浮いている。

「家まで送ってくれないのかい?」
「…さっさとその靴をその女性に渡されたらどうですか?」

「そんなことか…、」
「そんなこと?いい加減にしてください、私を振り回さないでください!」

(あぁ、そうか…)
少し彼女で、遊びすぎた。

「何なんですか?!」

こちらを鋭い目つきで睨んでくる彼女は、何処か泣きそうな表情をしている。

「すまない、少し悪戯が過ぎた。」
「はいっ?!」

ああ怖い、今の彼女は相当気が立っている。
職場だったら、確実に銃口を突きつけられているか、威嚇射撃をされているか、だ。

「君があんまり鈍いから、つい。」
「鈍い…?それは…えっ?」

ようやく気付いたであろう彼女の身体を、彼は引き寄せた。
靴が入った袋を持った手を、そのまま、彼女の背中に回した。
すっかり冷たくなった彼女の身体を、そのまま抱きしめて、
彼女の頭をそっと抑えるように抱えて、彼女の頬をそっと自分の胸へと押し当てた。
抱きしめた拍子に、彼女の手を離れた赤い風船が、ふらふらと空に飛ばされていった。

「君がなかなか気付かないから、普通、気付くだろう?」
「……知りません、」

「普通、他の女性の話をしないだろう?」
「普通なんて知りません。」

いったん彼女を身体から放して、ゆっくりとその瞳を見つめた。

「靴、履く?」
「…そんな高価なもの頂けません。」

「君が選んだんだよ、気に入ってたくせに、」
「私のだなんて、というか、大佐がその、その女性に贈られるから…、」

「つまりその女性が君なんだが?」
「…それは結果論です。」

「結果論って…、君、大分動揺してる?」
「とにかく、受け取れません。」

真っ赤な靴の入った袋を、そっと彼女に差し出してみる。
彼女は袋と彼の顔とを交互に見比べた。
その瞳には、小さな雫がついているように、見えた。

「アメストリスで私からの贈り物を断る女性は早々いないんだろう?」
「なっ、」

彼女の言葉を、そのまま返してやると、彼女はさらに頬を桃色に染めた。
そんな彼女が、酷く可愛らしい。
(相当いってるよな……、)

「私は、その早々いない方に入るんです。」

それでも頑なに強がる彼女の、後ろで束ねている髪の毛を下ろす。
綺麗なハニーブロンドが宙で遊んだ。

「そうだね、だから特別だ、」





それから、やっぱり頑なに強がる彼女に、靴を渡す説得に数十分。
ちゃっかり予約をしていたホテルのレストランまで、彼女を引きずって。
彼女の頬がアルコールに染まるまで、そう時間は要らなかった。



レッド・レッド・レッド、何処までも赤に近い赤。

(つまり、赤だ。)













メリークリスマス。
頑張った、頑張った、頑張った私。
9時から初めて、もう4時だし!!私、がんばったくない?(何このハイテンション。
久々の更新がこんなのですみません。

早咲たんからのリクエストでお送りしましたv
リクエストは「クリスマスの街並みを歩くロイアイ」ですv
サンタさんとかみてさぁー、きっと、もっとホノボノリーなものなんでしょうね、、
どこで間違えたんだか。。すみません。
こんなのでもよろしければ、もらってやってください。。




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